19/9/16 【踏切内で車が立ち往生した時どうする?】慌てないために覚えておきたい緊急回避術

    2019年9月5日、京浜急行電鉄の神奈川新町~仲木戸間の踏切で電車とトラックの衝突事故が起きましたが、いまだに記憶に新しいことと思います。

 まだ、事故原因は明らかにされていませんが、大型トラックが狭い踏切の途中で、なんらかのトラブルが発生した場合、冷静に対処するのはプロドライバーでも難しいだろう。

 そこで、踏切内にクルマで進入して踏切を渡り切れずに遮断機が降りてしまったら、どうすればいいのか? いざという時に慌てないための緊急回避術を高根英幸氏が解説します。

文/高根英幸
写真/ベストカーWEB編集部

 

開かずの踏切は首都圏に7割が集中

京急神奈川新町駅すぐ前の踏切事故現場。カラー舗装で車道と歩道を分けて事故防止に配慮はしていた

 2019年9月5日、京浜急行の急行列車と大型トラックが衝突した踏切事故は、希に見る凄惨な列車事故だった。

 今回の事故により、大型トラックの運転手は衝突により亡くなってしまったので、原因究明にはかなりの時間がかかると思われるが、踏切内でトラブルが発生すれば、どれほど運転に慣れている人でも焦るのは当然だろう。

 ともかく、踏切という場所は、通常の交差点とはまた違った危険性があることを、改めて認識させられた事故だったハズだ。渋滞の原因にもなっていることから、鉄道会社により線路の高架化が進められているとはいえ、まだまだ踏切がある道路は多い。

 国土交通省が認定した40分以上遮断機の降りた状態が続く「開かずの踏切」は全国で532カ所もあり、そのうち7割にあたる371カ所は首都圏に集中しており、最多は東京都の245カ所で、今回事故の起きた神奈川県は73カ所で続く。

 いっぽう関西圏は130カ所とそれほど多くはない。踏切事故件数は20年間で半減し、500件近かった2000年前後から、2018年の踏切事故件数は247件と大きく減っている。

 国土交通省は40分以上の待ち時間がある踏切を開かずの踏切とみなし、2016年に全国532カ所を指定している。事故が起きた「神奈川新町第1踏切道」もそのひとつ。ピークで48分もの待ち時間がある「緊急に対策の検討が必要な踏切」だった。

出典/国土交通省交通白書令和元年版

いざという時に慌てないための緊急回避術

教習所では踏切内を走行中、MT車は変速してはいけないと教えられたハズ

 教習所で教わったことの大半は忘れてしまっていても、踏切内は駐停車どころか停止も禁止であることはドライバーなら誰でも覚えているハズだ。MT免許を取得したドライバーは、踏切り内は変速せずに1速のまま走り切ること(エンストを防止するため)と教えられたことだろう。

 しかし、ついうっかり踏切内に進入して、その先が渋滞で踏み切り内で停車してしまうことだってありえないことではない。もし踏切内に停止しなければならなくなったら、警報が鳴る前に、どうやったらその状況から脱出できるか、考え始めなくてはいけない。

緑色に塗られた部分が歩行者用通行帯

 前方の信号が変わって、すぐに前の車列が流れ出すかもしれない。そうであれば、そのまま前進して踏切内から出ればいいが、何も考えずに待っていて警報がなってしまったら、その時から考え始めると時間が足りなくなったり、落ち着いて考えられなくなる恐れがある。

 もし警報が鳴って遮断機が下り始めたら、反対車線の前方の遮断機が下りるまでには時間差があるから、反対車線で踏切前に停車しているドライバーにはひんしゅくを買うのを覚悟で、反対車線に出て踏切内から脱出する、これがまずは回避術としてはベーシックなパターン。

 もちろん反対車線で踏切内から出るだけでなく、そこから脇道や駐車場などにクルマを進行させることで、反対車線のドライバーたちになるべく迷惑をかけないようにするべきだ。

 前方の反対車線は直前まで対向車が迫っていて、そのスペースに進むことが難しいなら、思いきって後退して反対車線側にバックで出てしまうしかない。

 乗用車なら遮断機の竿(遮断桿)は上に滑っていくので折れないかもしれないが、1BOXなどでは折れてしまうし、クルマもキズつくことになるけれど、列車と衝突事故を起こすよりは、はるかにマシだ。

 では、両方向とも渋滞していて、踏み切りの両側両車線とも渋滞していて前後、反対車線とも塞がっていて出られそうにない状況であれば、どうだろう。

 実際にはそんなに渋滞していれば、気付かずに踏切内に進入して止まってしまうケースは、ほぼないハズだ。

 もしあるとすれば渋滞だからと、ながらスマホや助手席の乗員などとおしゃべりに夢中になって、前方の状態をよく見ないまま踏切内に入ってしまうような状況ではないだろうか。

 酷いケースでは漫画を読みながら運転しているドライバーにも遭遇したことがある(それも渋滞中だけではなく、巡航中も1度や2度ではない)。そんなドライバーほど、実際に踏切内でパニックを起こしてしまいそうだ。

 一番の問題は、こういう事態になった時、とっさの判断ができず思考停止に陥ってしまうケースだ。踏切内で警報が鳴り始めたら、パニックにならず落ち着いて踏切内から出ることを考えることが最も大事なのだ。前方が渋滞していれば、そのまま進むことは物理的に不可能なのだから、別のルートを探すしかない。

立ち往生してしまった場合は慌てず非常ボタンを押す!

いざという時は非常停止ボタンを躊躇せずに押そう

 問題は走行不能になって立ち往生した場合である。バッテリー上がりや、突然のエンジントラブルなど、起こる可能性はゼロではない。

 なんらかのきっかけ(カムアングルセンサーやクランク角センサーなどの経年劣化で信号が不安定になることで、エンストすることはよくある)でエンストした場合、Dレンジに入っているとセルモーターは回らないのに、慌ててキーだけ回して「エンジンが掛からないッ! 故障だ!」なんてことだって、大いに有り得る。

 そうした場合は、まずは遮断機に備わっている非常ボタンを押すことだ。これをためらってはいけない。

 自分や自分のクルマを助けるだけでなく、鉄道会社や乗客をダメージから救うことになる。いたずらで押すのでなければ、その後無事に脱出できれば罪に問われるようなことはない。

 非常ボタンを押したら、その下にある連絡先にすぐに電話をかけること。つまり非常ボタンを押しにいく時には、携帯電話を持っていくことだ。

カンカンと鳴ってから列車が来るまでは最低25秒ある

事故現場の踏切の横には車両基地用引き込み線の踏切があり、その踏切の直前には電車が停車していた

 ちなみに踏切の規則については鉄道営業法という法律がベースにあり、国土交通省の省令よって基準が定められている。

 それによれば、警報が鳴り始めてから遮断機が下りるまでの時間には15秒という基準があり、10秒以上は確保しなければならない、とされている。

 そして遮断機が下りきってから列車が通過するまでには20秒が基準で、15秒以上は確保しなければならない。つまり、警報が鳴り始めてから列車が来るまでには最低でも25秒はあるハズなのだ。

 今回の踏切事故のように急行列車でなくとも、列車は緊急ブレーキをかけても停止するまでには相当な距離を要する。

 だから、迷っているような猶予はない。5秒で判断して、携帯電話を持って遮断機へと走り、非常ボタンを押して電話をかけるしかない。クルマの移動は、その後で考えるべきなのだ。

 1980年代は非常に多かった踏切りでの車両事故だが、年々減少し、現在は年間90件前後で推移している。しかし60歳以上のドライバーの比率が高くなっているという傾向もある(ドライバーの高齢化による自然増もある)。

 高齢者ドライバーによる事故や線路内侵入といったトラブルは、今後も減らすことは難しい。踏切という地点では、これまでとは違った新たな危険性が潜む場所として認識しておく必要がありそうだ。

踏切を通過する際の電車の運転士からの視線
 
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